基礎研究部門について
研究室の歴史的と現在
時代の流れとともに当教室の研究様式も大きく変化しています。村田和彦教授時代(1973-1995年)、第1から第6研究室があり、第2内科に入局したスタッフはいずれかの研究室に所属しておりました。当時、大学院生になるスタッフは非常にまれで、週1回の研究日と祝祭日を利用して論文博士を目指しました。永井良三先生(1995-1999年)が教授に就任されると、その様式が大きく変わりました。ナンバー研究室は廃止され、3年目以降の数多くの若いスタッフが大学院生になりました。教室には多くの実験機器(実験台、遠心機、ディープフリーザー、クリーンベンチ、培養機器など)が設置されました。培養細胞を用いた実験やいわゆる分子生物学的手法が日常的な実験手法になりました。大学院生はAHAでの学会発表を目指し、卒業論文も循環器系のトップジャーナルに掲載されるようになりました。倉林正彦先生(1999年-現在)が教授に就任された後も、同様のスタイルを維持しつつ、新たなテクノロジーを積極的に取り入れながら研究をすすめてきております。近年では、培養細胞を用いた実験より遺伝子改変動物を用いた実験にシフトいます。マウス病態モデルの実験系(圧負荷心、心筋梗塞、肺高血圧、大動脈瘤、血管障害など)や電気生理実験(パッチクランプ)も確立してまいりました。2004年(平成16年)に新臨床研修医制度が開始されて以来、専門医志向の高まりに伴い大学院の希望者が減少していますが、海外からの留学生や、保健学研究科修士課程の大学院生も加わり、少数精鋭で、独創性に優れた、質の高い研究を目指しています。他教室や他大学とも積極的に共同研究をすすめております。また、患者検体を用いた遺伝子変異の同定も盛んにおこなわれています。これまでに蓄積された経験をさらに拡大させつつ、現在、下記のように多くのプロジェクトが推進されています。
研究内容について
現在は倉林教授の下で、磯、中島、小板橋、松井が中心になってそれぞれのプロジェクトを推進しています。磯は心血管病の病態下での脂肪酸代謝・糖代謝について解析を進めています。中島は、ヒト不整脈疾患の原因遺伝子を網羅的に解析しており、そのカバーする疾患は年々広がりを見せています。小板橋は遺伝子改変マウスモデルに大動脈縮窄・心筋梗塞・肺高血圧を作成し、心疾患の病態解析を行っています。松井は脂肪酸代謝(特に脂肪酸鎖長延長酵素Elovl6)に焦点を当てて、その観点から心疾患・動脈硬化にアプローチしています。それぞれは独立していますが、必要な情報・手技・材料は共有し、お互いに協力して和気あいあいとして雰囲気の中で研究を進めています。実験材料としてヒト検体・遺伝子改変マウス・培養細胞などを用いて、分子生物学・形態学・オミクスなどの幅広い方法論を使って研究に取り組んでいます。各論の詳細は、それぞれの担当者の項をご参照ください。基礎研究グループはこちらへ
博士号・修士号をとる意義
通常の大学(学士)と大学院(博士・修士)には違いがあります。学士では既知の学問の習得を目標とするのに対して、博士では人類が共有できる新たな概念を自ら提案することを目標とします。学士では知識や技術を教わる立場であるの対して、博士では知識を生み出し学問の発展に自ら寄与できるようになることを目指します。
研究は、例えるなら「未開の地に道を作り、橋を架け、地図をつくる」作業のようなものです。出来上がった地図を端から端まで頭に叩き込んで利用することも大切ですが、地図がなければ利用することはできません。土地を開拓し、道を作り、橋を架け、区画を整備し、インフラを整え、ヒトが生活できる環境をつくり、そして地図が出来上がる。こういった過程を経て地図が利用できるようになることを思えば、地図が出来上がるまでの行程のひとつひとつが重要であることがご理解いただけると思います。
生命科学は深遠であり、日々、爆発的な広がりを見せています。一人の人間がすべての領域を網羅し、謎に迫り、真理を探究することはできません。学問の領域が広範囲で、既知の知識を習得することですら並大抵のことではありません。それだからこそ、一時期、ある特定の領域に専念し、自らが情報を発信する(地図の一部になる情報を生み出す)ことは、後の人生にとって、有意義な経験になるはずです。実地臨床の指標となる教科書やガイドライン(地図)も、数多くの臨床研究や基礎研究の集積から生み出されます。しかし、昨日までの常識が明日には変わってしまうこともしばしばで、これは既知の学問には不確かで不十分な事項が含まれることを意味しています。大学院生として自ら研究に参加し実際に経験して学問の成り立ちを体感することで、情報の真偽を見極める知識・経験・判断力が向上し、情報のもつ価値や意義を見出せるようになることでしょう。大学院を修了することは、ひとつの新しい領域(未開の地)を開拓した証になり、物事を深く掘り下げて考え、全体を見渡す力を養い、問題点の解決方法を想起する、またとないトレーニング機会になるはずです。
研究の面白さ
パズルやクイズ番組でいち早く解答がわかればだれでも気持ちいいものです。研究はそのスケールを大きくしたものですが、決定的な違いがあります。それは、自分でquestionを設定することです。臨床であれ基礎であれ、現象を突き詰めて考えると必ずquestionが浮かび上がってきます。そのquestionがより普遍的であり人類が共有できる概念・知識になるものであれば、その学問的価値は高くなります。「だれも知らない大切な情報を自分がはじめて明らかにすること」、これはまさにときめきであり、研究の醍醐味です。この感覚は研究を始める前にはなかなか想像できないと思いますが、一回うまくいくとある種の快感になります。こんなときめきをいっしょに分かち合いましょう。
いい実験結果がでた、学会に演題が通った、発表がうまくできて褒められた、論文がアクセプトされた、留学が決まった、(恐らく真実だろうと思われる)仮説を思いついた、自分で作ったプラスミドのリクエストがきた、科研費・助成金が獲得できた、共同研究がはじまった、学会賞をもらった、知らない研究者に声をかけられた(ヒトに認知された)、学内・学外に知り合いが増えた、チームを持った、大学院生が学位を取得した。
反対に上記がうまくいかなくて落ち込むことも相当な頻度であります。ただ、一回成功体験があると、もう一回経験したくなるタイプの喜びが結構あるので、つらい時期もある程度乗り越えられます。
医学博士課程、修士課程について
大学院で生命科学研究を行うにあたり、主に次の3項目が重要になってきます。
(1) その分野の現状を理解し独自の仮説を設定すること(着想)
(2) 仮説を証明する方法論を具体化し実践すること(実験)
(3) 得られた情報を概念化し、口頭あるいは文章で世の中に還元すること(学会発表と論文掲載)
です。これらの3つの要素はすべて重要で、いずれが欠けてもオリジナリティの高い、世界水準の生命科学研究は成立しません。それらを習得することが大学院生の最終目標になります。着想・仮説の部分は入学当初の多くの大学院生にとって困難なものと予想されますので、最初の段階では指導者のテーマに沿って実験を開始していただくことになります。はじめは実験上の手技を学びデータを積み重ね、その領域の知識を蓄えて、次に国内・海外の学会で発表し、最終的に英文論文を作成することになります。この過程で自らの疑問を持つよう鍛錬し、最終的に独自の構想をたてられるよう援助していきたいと思います。また、大学院での生活はすべての過程で高い自主性が要求されますので、短期・長期の目標を設定し、その目標に到達できるように自ら動機付けを行っていくことが、充実した大学院生活を送るために必要になってきます。一つひとつに高いクオリティーが要求されますので、最初はハードルが高く感じられますが、それを乗り越えると大きな達成感があります。皆さんの入学をお待ちしています。
学会・研究活動について
毎年、日本循環器学会学術集会(日循)、Scientific Sessions of American Heart Association (AHA),を中心に数多くの学会報告を行っています。修士課程の大学院生は日本語の卒業論文を、博士課程の大学院生は英文論文を有名雑誌に掲載することを最終目標にしています。
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