図2:エルゴメーター運動負荷心エコー図検査
自転車を仰向けでこぎながら、心エコー図検査をして、息切れの状態の心臓の形態や機能を観察します。軽負荷から実施しておりますので、ご高齢の患者さんでも歩いて外来に来られる方であれば、検査をすることができます。運動時間の目安は5分~15分程度で検査時間の目安は40分程度です。
加齢とともに息切れを訴える患者さんは増えます。その一方で、「息切れ程度」と医師に相談することをためらわれる患者さんや、息切れで大学病院へ紹介するのを躊躇なさっているかかりつけ医の先生方もいらっしゃるかと思います。しかし、息切れの中には心不全や狭心症、肺高血圧症などの重大な心疾患が隠れている場合があります。さらに、息切れは呼吸器疾患や血液疾患、代謝疾患などの場合もあり、これら非心疾患との鑑別も必要とします。
私たちは、2022年3月より「息切れ外来」を開設しています。息切れ外来の目的は以下の2つです。
心不全は超高齢社会の本邦では増加の一途をたどっており、感染症の爆発になぞらえて「心不全パンデミック」と呼ばれています。心不全の進行は一方通行であり(図1)、ステージが進行するほど生命予後が悪くなります。特に、うっ血性心不全を発症して入院した患者さんの場合、4人に1人が1年後に心不全で再入院し、5人に1人が亡くなられることが分かっています。一方で、気づかないうちに病状が進行してうっ血性心不全を発症してしまうことが多いのが現実です。息切れ外来では、うっ血性心不全を発症する前の段階で心不全を早期発見して治療することで、心不全の進展抑制ができると考えて診療に取り組んでいます。
図1:心不全の自然経過
心不全はステージA(心不全のリスクだけをもつ)、ステージB(症状はないが、心臓の構造や機能に異常を認める)を経て、症状のある明らかな心不全(ステージC)を発症します。ステージCにおいて、「うっ血性心不全」を発症して入院するかどうかが重要になります。なぜなら、うっ血性心不全を発症してしまった場合には生命予後が悪化してしまうからです。気づかないうちに病状が進行してうっ血性心不全を発症してしまうことが多く、息切れ外来ではこのうっ血性心不全入院を起こす前に心不全を発見、治療することを目指しています。
しかし、心不全を早い段階で診断することは容易ではありません。特に、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)では、心臓の動きが一見すると正常なために、息切れの原因がHFpEFなのかどうか判断をするのがとても難しいのです。HFpEFの主なリスクは加齢と生活習慣病であり、食生活の欧米化や運動不足によってHFpEFの頻度は増加しており、今や心不全の7割近くを占めることが分かっています。つまり、HFpEFの増加が心不全パンデミックを引き起こしていると言っても過言ではないのです。また、これまでHFpEFの治療薬はありませんでしたが、SGLT2阻害薬の登場によってHFpEFは治療可能な疾患になり、正しくそして早く診断することがより重要になりました。
HFpEFをはじめとする「息切れ患者さん」の診療で最も難しいのは、症状の出る労作時にしか異常が出ない場合が多いことです。このため、安静時にいくら検査をしても異常がなく、診断をつけることができない場合があります。息切れ外来では、自転車をこぎながら心エコー図検査を行う「運動負荷心エコー図検査」を使って、まさに息切れ症状が出ている時の心臓の形態や機能を詳しく観察し、この「労作時だけに出る異常」を見つけて診断に役立てています(図2,動画1)。運動負荷心エコー図検査はHFpEFの早期発見だけでなく、息切れの原因になる肺高血圧症や、狭心症、弁膜症、閉塞性肥大型心筋症、収縮性心外膜炎などの診断にも有用です。
図2:エルゴメーター運動負荷心エコー図検査
自転車を仰向けでこぎながら、心エコー図検査をして、息切れの状態の心臓の形態や機能を観察します。軽負荷から実施しておりますので、ご高齢の患者さんでも歩いて外来に来られる方であれば、検査をすることができます。運動時間の目安は5分~15分程度で検査時間の目安は40分程度です。
動画1:エルゴメーター運動負荷心エコー図検査の実例
息切れの原因診断がついた場合には、ガイドラインに準じた適切な薬物療法、場合によってはカテーテル治療などをご提案させていただきます。診断後は、かかりつけ医の先生への逆紹介を基本としております。その際も、フォローの際の注意点や息切れ外来でのフォローアップの有無を共有させていただきます(図3)。また、息切れの原因疾患が呼吸器疾患をはじめとする他疾患で専門医への紹介が必要な場合には適切に紹介いたします。
図3:かかりつけ医の先生と息切れ外来の連携のイメージ図
息切れがあって心不全を疑うあるいは、原因がわからない患者さんを息切れ外来にご紹介いただきます。運動負荷心エコー図検査を中心に、息切れの精査をさせていただきます。診断がついたら最適な治療をご提案させていただき、基本は逆紹介させていただき、かかりつけ医の先生のもとで治療を継続いただきます。
心不全を早期診断し治療することで病状の悪化を防ぎ、患者さんの健康寿命の延伸に貢献できればと考えています。2022年3月の息切れ外来開設から2年で300名以上の患者さんをご紹介いただきました。かかりつけ医の先生方におかれましては、息切れで困っている患者さん、あるいはBNPやNT-proBNPが上昇しており(紹介基準の目安はBNP≧35 pg/mL, NT-proBNP≧125 pg/mL、図4)精査希望の患者さんがおられましたら、「息切れ外来」への紹介をご検討ください。
図4:心不全を疑った場合の息切れ外来紹介の目安
群馬大学医学部附属病院 循環器内科 病院講師 小保方 優
TEL:027-220-8145
E-MAIL:obokata.masaru@gunma-u.ac.jp