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不整脈部門

部門の紹介

一口に不整脈といっても、脈拍の速さにより速い(頻脈性)不整脈から遅い(徐脈性)不整脈まで、また症状により動悸、めまいを自覚する比較的軽いものから、めまい、失神、さらに突然死を生じる危険な不整脈まで様々です。最近の不整脈診療の進歩はめざましく、薬物療法に加えて、ペースメーカ、カテーテル治療(アブレーション)、植込み型除細動器、両心室ペーシングといった非薬物療法を駆使して、従来治らなかった不整脈を抑制・根治する、また突然死を予防することが可能となっています。そのため、循環器内科領域のなかでも虚血性心疾患、心不全と並んで3本柱のひとつにあげられる重要な領域になっています。私たち群馬大学不整脈グループは、高度な専門的な知識や十分な経験に基づいて、あらゆる不整脈に対し適切で最新の医療を提供しています。外来は、不整脈外来として月・木・金曜日の午前に、ペースメーカ・ICD外来として月曜日の午後に診療しています。お気軽にご相談下さい。

所属メンバー

群馬大学  中谷洋介、田村峻太郎(助教)、長谷川寛(助教)、小針尭司(医員)、金古善明(客員教授)、中島忠(客員准教授)

主な診療紹介

1)脳梗塞をおこす不整脈、心房細動の診療

心房細動は、心臓に特別な疾患がなくとも加齢とともに起こりやすくなる最も多い不整脈の一つであり、脈の不整、動悸、頻脈感等の不快な胸部症状を伴うことに加えて、心(左房)内に血の塊(血栓)が形成され心臓から流出して、脳や四肢、腹部臓器の血管に詰まる塞栓症を生じることがあります。そのため、心房細動の診療は、今日の不整脈診療のなかで最も重要です。基本的な治療の方針は、

  1. 心房細動の発生を抑制し正常な脈拍を保つ治療(リズム治療)か、心拍数のみコントロールする治療(レート治療)、及び
  2. 塞栓症予防のための抗凝固療法です。

心房細動が発作的に生じる発作性心房細動では、通常まず薬物(抗不整脈薬)によるリズム治療が行われます。薬物で停止しない時には、必要に応じて電気ショック(電気的除細動)にて停止させることもあります。しかし、心房細動の病巣は進行性で、通常経過とともに発作の頻度や持続時間が長くなったり、多種の抗不整脈薬でも発作の予防が困難となる例は少なくありません。最近ではカテーテル治療(後述する肺静脈隔離術)により高率に発作の抑制が可能となっています。一方、心房細動が慢性的に持続している持続性心房細動では、レート治療が中心となります。いずれの心房細動でも、塞栓症のリスク(75歳以上、高血圧、心不全、糖尿病、脳梗塞の既往のいずれか)がある場合には、抗凝固薬の服用が必要です。以前汎用されていたワルファリンは、ビタミンKの摂取制限(納豆等)や飲み合わせの悪い薬剤(抗生物質、鎮痛薬等)を控える必要がありましたが、最近これらの制限の必要ない抗凝固薬が汎用されています(現在、薬品名「プラザキサ」、「イグザレルト」、「リクシアナ」、「エリキュース」の4種類の薬剤が市販されています)。

2)不整脈の根治治療 ~カテーテルアブレーション~

カテーテルアブレーションとは、カテーテルという管を用いた不整脈の根治治療で、不整脈治療の主流になっている治療法です。鼠径部の血管(大腿静脈か大腿動脈)を通して心臓までカテーテルを挿入し、副伝導路や頻拍起源といった不整脈の原因となる部位を高周波により焼灼することで不整脈を根治します。対象となる不整脈は、発作性上室性頻拍症(房室結節リエントリー性頻拍、房室リエントリー性頻拍、心房頻拍)、WPW症候群、心房細動、心房粗動、心室頻拍、心室性期外収縮です。1994年よりこの治療を開始し現在まで2000例以上の治療経験があります。その他は概ね2泊3日の短期入院にて治療を行っています。心腔内エコー画像を融合させた最新鋭の三次元心臓マッピングシステム(CARTO3やEnsite system, Navix)を導入し、心房細動や難治性の心室頻拍に対してもアブレーション治療を積極的に実施し、良好な成績を得ています。

①心房細動に対する肺静脈隔離術

心房細動は、左房に接続する肺静脈の起始部から発生する異常興奮が主な原因です。心房細動に対するアブレーションは、(両側拡大)肺静脈隔離術といって、心房中隔を穿刺して左房にカテーテルを挿入し、左右の肺静脈を2本ずつ囲むように肺静脈を囲むように焼灼して、異常興奮を肺静脈の中に閉じ込めることで心房細動を抑制します。この治療は全国的にも広く普及しており、現在年間6万人以上の患者さんに施行されています。浅い全身麻酔を施しますので、施術中の苦痛はありません。具体的な焼灼方法は、高周波エネルぎーによる点状焼灼を繰り返して線状焼灼を形成する方法が主流ですが、最近では肺静脈に挿入したバルーンにより一気に冷凍凝固して隔離する方法(冷凍アブレーション)が特に発作性心房細動例で有効です。入院期間は、5-7日程度です。根治率は心房細動の病状・病期により異なりますが、病期が初期である発作性心房細動では、90%程の根治率が期待できます。


両側拡大肺静脈隔離術を施行した左房の三次元マッピング画像

左肺静脈に留置してある2本のリング状カテーテルとアブレーションカテーテルのX線透視像

肺静脈入口部にバルール留置して行う冷凍アブレーション
②心室頻拍に対するアブレーション

心室頻拍は、左右いずれかの心室筋の中に異常信号を発生させる病巣(起源)が形成されてしまった病気です。この頻拍に対するアブレーションでは、この起源の部位を探して心内腔から焼灼・破壊することで頻拍の根治を目指します。最近では、三次元マッピング装置により起源を視覚的に描出できるため、以前難治性であったこの頻拍の治療成績が格段に向上しました。さらに心内腔からの焼灼で根治されない例では、心臓の外側(心外膜側)からのアプローチを行うことも可能です。


三次元マッピングシステム(CARTOシステム)で視覚化された心室頻拍の起源

左室内腔から頻拍起源を焼灼しているアブレーションカテーテル(ABL)のX線透視像
③上室頻拍症に対するアブレーション

上室頻拍症は、突然出現する動悸発作が特徴の頻拍です。その多くが先天的に心臓内に存在する「伝導路」によるため自然治癒することはないため、命にかかわることはありませんが生活の質が障害されます。そのため、発作を1度でも経験した方にはカテーテルアブレーションによる頻拍症の根治が勧められます。上室頻拍症には原因となる伝導路の種類により3つのタイプがありますが、房室結節伝導路を原因とする房室結節リエントリー性頻拍と房室副伝導路を原因とする房室リエントリー性頻拍で大部分を占め、いずれも伝導路を焼灼することで根治が得られます。私たちは、本頻拍の治療経験においては国内有数の治療経験と実績があると自負しています。特に房室結節リエントリー性頻拍については、新たな伝導路(「上方」の遅伝導路)の発見とそれによる頻拍の考え方を提唱し、国際的にも高い評価を得ています。

Kaneko Y, et al. Atypical fast-slow atrioventricular nodal reentrant tachycardia incorporating a “superior” slow pathway: a distinct supraventricular tachyarrhythmia. Circulation 2016;133:114-123.

3)突然死予防の治療 ~植込み型除細動器(ICD)~

心筋梗塞や心筋症といった器質的心疾患に伴う心室頻拍や心室細動の既往例は、将来心室頻拍・細動が再発し突然死の危険性が高いと考えられています。このような患者さんに対して突然死予防のために植え込み型除細動器を植え込みます。最近では、心臓内にリードを挿入しない皮下ICDを積極的に植え込み、患者さんの負担の軽減に努めています。


左鎖骨下部に植え込まれたICD

心室細動発作に対してICD(直流通電)が作動し、正常の脈拍に復しています

皮下ICD植え込み模式図
4)心不全治療法としてのペースメーカ治療 ~心臓再同期治療(両室ペーシング)~

心不全は心臓の収縮力が低下しているが主因ですが、これに加えて心臓の収縮がゆがみ(非同期収縮)が心機能をさらに低下させます。心房再同期療法とは、右室と左室(冠静脈洞)を同時にペーシングすることでこのゆがみを是正(再同期)し、心機能を改善するペースメーカによる心不全治療です。


心臓再同期療法中の胸部写真
5)リードの要らないリードレスペースメーカ

従来のペースメーカでは、静脈を介して心臓にリードと呼ばれる伝線を留置する必要があり、稀ではありますが感染やリード断線のリスクがありました。リードレスペースメーカとは、小型のペースメーカを特殊なカテーテルを用いて右室内に留置するためリードが不要です。一部の高齢者には負担の軽減がはかられ有用です。

6)植え込み型ループレコーダー

不整脈発作は、発作時の心電図が記録されないと診断も治療もできないことがあります。植え込み型ループレコーダは、楊枝ほどの長時間心電図装置であり、前胸部に移植することで原因不明の不整脈や失神発作の原因を診断できます。


植え込み型ループレコーダーの模式図