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留学体験記

留学体験記「Wonderful Time in Rochester, Minnesota」
群馬大学医学部附属病院 循環器内科 小保方 優

2016年4月から2019年8月まで, 米国ミネソタ州ロチェスター市にあるMayo Clinic, Department of Cardiovascular Medicineに臨床研究留学していました. 留学体験記ということで, 留学の素晴らしさを伝えられるよう私の経験を書ければと思います.

#1. 留学先の決め方.

おそらく留学を考えている先生にとって初めに考える問題だと思います. 私が考えた留学先の決め方のプライオリティとして, ①一番興味のある分野/指導者, ②指導者もしくは研究室のアクティビティ, ③フェローが多すぎない, ④治安, ⑤現実的なコネクション, ⑥給与の有無です. 私の指導者のBarry Borlaug先生は当時, 左室駆出率の保たれた心不全Heart failure with preserved ejection fraction (HFpEF)の分野で, まだあまり一般的ではなかった侵襲的な運動負荷右心カテーテル検査のパイオニア的存在でした. このHFpEFの病態をエレガントに解き明かすBorlaug先生の手法に感銘を受け, Borlaug先生のもとで勉強がしたいと考えたのが留学の一番の理由でした. 論文も常にpublishしており, おそらくフェローの数も少なく, Mayo Clinicのあるロチェスター市の治安はよさそうで, そして幸い医局長の小板橋先生の師であるDavid Kass先生がBorlaug先生の前上司であったことから留学が実現しました. 私の留学先の決め方はおそらく研究面から考えると最も理想的な選び方だったのではないかと考えています(給与はなかったですが苦笑).

#2. Mayo Clinicとロチェスター

私が留学したMayo Clinicはここ数年常に全米の病院ランキング一位に選ばれている超有名施設であり, 臨床・研究・教育において世界をリードしています. ただ, 何となく名前は聞いたことがあったものの, 留学時にそのような知識は全くありませんでした. Mayo Clinicのあるロチェスター市はミネソタ州で第3の都市ではありますが, 人口約11万人と比較的で小さな都市です. 冬の寒さは厳しいですが暖房設備が発達しており(-30度以下になることもあります), 夏は湿気も少なく非常に快適です. 何よりも治安が非常によく, “Minnesota Nice!”という言葉があるほど, ミネソタ民は基本的に親切で愛想がよく, われわれ日本人留学生にとってはとても住みやすい環境だと思います. ロチェスター周辺はいい意味で自然が豊か, 悪く言うとかなりの田舎で, 地平線の彼方までトウモロコシ畑が広がっています(中学の地理で習ったアメリカのコーンベルトです).

#3. 研究生活.

私の研究生活は予想と期待をはるかに超えるものでした. まず驚いたのがBorlaug先生のリサーチマインド・アクティビティの高さでした. 私のような臨床研究のリサーチフェローの場合, 基本的に主となるテーマをもらい臨床データを集め, データを計測, 統計解析しながらプロジェクトを進め, おそらく2年くらいの間で1-2編の論文を書くというのが一般的だと思います. 私の場合は同僚のフェローと二人で, 多いときには同時に30のプロジェクトを任されていました. Borlaug先生についていたフェローは私とインド系米国人の当時レジデントをしながら臨床研究をしていたYogeshだけでした. このYogeshの優秀さ, リサーチマインドの高さ, そして何より人のよさのおかげで私の3年半の研究留学があったと言っても過言ではありません. この指導者のアクティビティの高さ, 同僚のアクティビティの高さ, そしておそらく私自身のやる気もあいまって, Eur Heart J, Circulation, JACCといった循環器のBig 3をふくめ現在までに42編の論文をpublishすることができました. さらに, 帰国後の現在も客員研究員のポジションをいただき, Mayo Clinicでの研究を続けています.

#4. 心エコー業務・心カテ.

通常では, 私たちリサーチフェローは患者さんとのコンタクトが禁止されており, 臨床現場に行くことは許可されません. しかし, たまたま私の専門が心エコーであり, リサーチソノグラファーが欠けていたことが重なり, 特別にリサーチ目的の心エコー検査の実施を許可されました. ほとんどが100kg越えの患者さんばかりで最初は悪戦苦闘しましたが, 3年間でHFpEF患者さんの安静時心エコーと運動負荷心エコーを200例以上とらせてもらいました. さらにその流れでカテラボにもほぼ自由に出入りすることができ, 自分の見たい症例, とくに運動負荷右心カテーテルを中心に見学することができました. Borlaug先生の手技だけでなく, 血行動態の大家であるRick Nishimura先生のカテも見学しレジェンドから血行動態に関して直接レクチャーも受けることもでき自分にとってかなり貴重な経験になりました.

#5. 同僚の日本人フェローコミュニティー

留学中は日本人の家族同士のつながりがとても強いと聞いたことがあるかもしれません. Mayo Clinicのあるロチェスターには私と同じような立場の日本人フェローがだいたい20-30世帯程度住んでいました. 日本人フェローとの付き合いを一言でいえば”大学生のときの友達”といったところです. 研究の空き時間にコーヒーを飲みにいったり, 筋トレ部を結成し週2回で筋トレを続け, 釣り部を結成しおそらく人生分の魚を釣りました. さらによいのがこれらの付き合いが家族ぐるみだということです. 夏の週末はプールサイドでバーベキュー, 冬は持ち寄りで食事会, 友人家族と旅行にもたくさん行きました. 私たちの場合は3年半留学していたので, たくさんの友人, 友人家族と出会い, よい関係を築くことができ, さらにこれらの関係は帰国した今でも続いており, 一生の宝ではないかと考えています.

#6. 家族との留学生活

3年4ヵ月の米国留学で家族とともにかけがえのない時間を過ごすことができました. おそらくこれが留学で得た最も大きなものでしょう. 基本的に自宅への帰宅は午後6時半と決めていたので, 明るい時間に家に帰り, 家族で夕食を食べ子供を寝かしつける. 小さなことですが, 日本にいたのではなかなかできない家族との時間をもつことができました. さらに週末は100%休みでしたので, 家族でよく外出に行けました. 留学中にアメリカの自然の美しさ, スケールの大きさに魅了されて, 北はアラスカ, 南はフロリダまで国立公園を中心に合計20州旅行することができました. 今思い返すと家族で長い長い夏休みを過ごしていたようです.

おわりに

3年半の留学生活で研究者としてHFpEFの知識, 血行動態の解釈, 臨床研究のテクニックを学べただけでなく, 臨床医としての姿勢や価値観をも成長させられたのではないかと感じています. これは私にとって論文の数以上の財産であったと考えています. また, 留学中に関わったアメリカ人, 日本人フェローとその家族, 自分の家族との時間を通して, この留学は私を人間としても成長させてくれたと感じています. 人生でこれほど中身の濃い時間はないのではと思うくらい素晴らしい時間を過ごすことができました.
この留学体験記が留学を考えている先生方の肩を少しでも後押しすることができれば幸いです. 最後に, 医局員が少ない中で3年強の間の海外留学を許してくださった倉林先生はじめ医局員の先生方に感謝申し上げます.

写真1. 指導者のBorlaug先生(右端), 他の仲間の先生たちと一緒に.
写真2. 相棒のYogeshと.
写真3. 留学先のMayo ClinicのSt Marys Hospital. レンガ造りのレトロな病院です. 全室個室の1300床で, 循環器専用のカテ室が13もあります.
写真4. 筋トレ部. 週2で楽しくトレーニングしていました.